弁護士ぐすくのノート

継続的に勉強をしないといけないなあ。 ということで、その動機付けのために作ったページです。 余剰時間、興味の度合いによって、内容の精度は大きく変わります。 正確なところは、それなりの文献を調べて下さい。 したがって、記事の内容については、一切の責任を負いかねます。

2011年02月

平成22年12月20日行政書士法違反被告事件

平成22年12月20日行政書士法違反被告事件
最一判平成22年12月20日

<事案>
被告人が、依頼を受けて、家系図を作成し、報酬をもらったという事件で、行政書士資格がないのに、行政書士法1条の2第1項にいう「事実証明に関する書類」に該当する行政書士業務を行ったとして同法19条1項に違反し、同法21条2号に該当するとして起訴された事件です。

一審、二審共に有罪


<判旨の概要>
これに対して、最高裁は、以下の理由で破棄しました。
「本件家系図は、自らの家系図を体裁の良い形式で残しておきたいという依頼者の希望に沿って、個人の観賞ないしは記念のための品として作成されたと認められるものであり、それ以上の対外的な関係で意味のある証明文書として利用されることが予定されていたことをうかがわせる具体的な事情は見当たらない。そうすると、このような事実関係の下では、本件家系図は、依頼者に係る身分関係を表示した書類であることは否定できないとしても、行政書士法1条の2第1項にいう「事実証明に関する書類」に当たるとみることはできないというべきである。」

本件では、パンフレットには、「長寿のお祝い・金婚式・結婚・出産・結納のプレゼントに」、「ご自身の生まれてきた証として」のほかに、「いつか起こる相続の対策に」と記載されていたそうです。
しかし、対外的な関係で具体的な利用目的があったとはいえないようで、作成目的が先祖に対する興味や被告からの勧誘等の域を超えなかったと認定されたようです。

なので、相続が発生しているとか、発生しそうである場合のように、具体的に家系図を事実証明に利用できる事情が認められる場合は、具体的な利用目的があったとされるおそれがあり、危険だったと思います。





平成22年12月20日保釈保証金没取請求事件〜逃亡後判決確定前に身柄拘束された場合の保釈金

平成22年12月20日保釈保証金没取請求事件
最二決平成22年12月20日

<事案>
判旨によると、
第一審:懲役刑(実刑)
保釈
控訴審:棄却、上告
保釈請求却下
勾留呼出
逃亡(呼出に応ぜず)→所在不明
身柄拘束
上告取下
判決確定
刑の執行

という流れで進んでいったようです。

そこで、検察官が、刑訴法96条3項の適用ないし準用により保釈保証金の没取を求めた事案です。

<判旨>
「刑訴法96条3項は、その文理及び趣旨に照らすと、禁錮以上の実刑判決が確定した後に逃亡等が行われることを保釈保証金没取の制裁の予告の下に防止し、刑の確実な執行を担保することを目的とする規定であるから、保釈された者が実刑判決を受け、その判決が確定するまでの間に逃亡等を行ったとしても、判決確定までにそれが解消され、判決確定後の時期において逃亡等の事実がない場合には、同項の適用ないし準用により保釈保証金を没取することはできないと解するのが相当である。」

刑訴法96条3項は、保釈された者が、刑の言渡を受け「その判決が確定した後」と明確に書いてありますね。刑事はほとんどやらないけど、逃げたら確定しないように控訴しとくべきなのかなあ(355条)。


平成22年12月20日道路交通法違反、労働基準法違反被告事件〜併合罪

平成22年12月20日道路交通法違反、労働基準法違反被告事件
最三判平成22年12月20日

「労働基準法32条1項(週単位の時間外労働の規制)と同条2項(1日単位の時間外労働の規制)とは規制の内容及び趣旨等を異にすることに照らすと、同条1項違反の罪が成立する場合においても、その週内の1日単位の時間外労働の規制違反について同条2項違反の罪が成立し、それぞれの行為は社会的見解上別個のものと評価すべきであって、両罪は併合罪の関係にあると解するのが相当である。」

併合罪になると有期懲役又は禁錮について、処断刑の範囲が最も重い罪について定めた刑期の長期の1.5倍(ただし、それぞれの罪の長期の合計以下)になるので、併合罪と判断されるのかは重要です。

罪数や処断刑の問題は、検察修習と刑裁修習ではよくやりましたが、司法試験では余りやらず、最近は殆ど関わる機会がないので複雑な件については自信がありません。
裁判官や検察官もごくたまに間違えるくらい複雑な場合もあります。



平成22年12月17日審決取消請求事件〜施設利用料より低い価格での利用者への直接提供

平成22年12月17日審決取消請求事件
最二判平成22年12月17日

<事案>
某超大手電気通信事業者XがFTTHサービスを自ら利用者に提供するにあたり、その料金を、他の通信事業者がFTTHサービスを利用者に提供するためにXに支払う施設利用料より、低い価格に設定したことに対して、独占禁止法2条5項の排除型私的独占に該当し同法3条に違反すると公取の審決を受けたために、その取消を求めた事案です。

<判旨の概要>
まず、
「独禁法は,公正かつ自由な競争を促進し,事業者の創意を発揮させて事業活動を盛んにすることなどによって,一般消費者の利益を確保するとともに,国民経済の民主的で健全な発達を促進することを目的(1条)とし,事業者の競争的行動を制限する人為的制約の除去と事業者の自由な活動の保障を旨とするものである。」
と独禁法の趣旨を述べます。


「その趣旨にかんがみれば,本件行為が独禁法2条5項にいう「他の事業者の事業活動を排除」する行為(以下「排除行為」という。)に該当するか否かは,本件行為の単独かつ一方的な取引拒絶ないし廉売としての側面が,自らの市場支配力の形成,維持ないし強化という観点からみて正常な競争手段の範囲を逸脱するような人為性を有するものであり,競業者のFTTHサービス市場への参入を著しく困難にするなどの効果を持つものといえるか否かによって決すべきものである。」
と規範を建てます。


「この点は,具体的には,競業者(FTTHサービス市場における競業者をいい,潜在的なものを含む。以下同じ。)が加入者光ファイバ設備接続市場において上告人に代わり得る接続先を確保することの難易,FTTHサービスの特性,本件行為の態様,上告人及び競業者のFTTHサービス市場における地位及び競争条件の差異,本件行為の継続期間等の諸要素を総合的に考慮して判断すべきものと解される。」

関係ないですけど、こういう書き方って、司法試験の答案を書くときにも参考になるのではないですかね。これを金太郎飴答案として批判の対象とするのは、なんのための試験かと言うことを考えると、ちょっと違うかなという気がします(脱線)。
本件では、FTTHに不可欠の光ファイバ芯数のうちX保有のものがXの業務記域内で70%以上を占め、また電気通信事業者が自ら設置することは、費用面や権利関係において困難であること
FTTHサービス利用にあたる工事の必要性などから一度契約されると長期間維持され契約変更が生じ難いこと
Xは、ニューファミリータイプのサービスを分岐方式で提供するとの形式をとって芯線直結方式にかかる行政的規制を実質的に免れていたが、実際には芯線直結方式で提供されていたこと
Xと他の電気通信事業者との間におけるFTTHサービス市場における地位及び競争条件においての相当な格差
Xの市場支配力の形成、維持ないし強化という観点からの本件行為期間の長さ

などの事実を認定したうえで、
「本件行為は,上告人が,その設置する加入者光ファイバ設備を,自ら加入者に直接提供しつつ,競業者である他の電気通信事業者に接続のための設備として提供するに当たり,加入者光ファイバ設備接続市場における事実上唯一の供給者としての地位を利用して,当該競業者が経済的合理性の見地から受け入れることのできない接続条件を設定し提示したもので,その単独かつ一方的な取引拒絶ないし廉売としての側面が,自らの市場支配力の形成,維持ないし強化という観点からみて正常な競争手段の範囲を逸脱するような人為性を有するものであり,当該競業者のFTTHサービス市場への参入を著しく困難にする効果を持つものといえるから,同市場における排除行為に該当するというべきである。」
としました。


また、ADSLなど他のブロードバンドサービスとの需要の代替性を否定し、FTTHサービス市場を独立して独禁法2条5項の一定の取引分野と評価し、既存業者の存在がXに対する牽制力となっていないこと、Xの行為停止後に他業者が本格的に新規参入していること、その前後で既存業者ABの競争力に特段の変化が見られなかったことなどから、Xの本件行為と競争制限の因果関係を認めました。




平成22年12月16日持分所有権移転登記手続、遺産確認、共有物分割請求本訴、持分所有権移転登記手続請求反訴事件〜中間省略登記の請求と釈明

平成22年12月16日持分所有権移転登記手続、遺産確認、共有物分割請求本訴、持分所有権移転登記手続請求反訴事件
最一判平成22年12月16日

<事案の概要>
上告人Yは、土地甲について、10分の3の持分登記があったところ、当該土地の共有物分割などを求めて訴えを提起しました。
これに対して、被上告人Xは、土地甲はAがYから贈与を受けたもので、A死亡による遺産分割協議によりXの単独所有となったものであるとし、逆に、真正な登記名義の回復を原因とする持分全部移転登記手続を請求する反訴を提起しました。

<判旨の概要>
原審は、Xの主張を容れ本訴棄却、反訴認容しました。

しかし、最高裁は、本訴棄却は維持したものの、反訴認容については破棄差戻しをしました。

理由は、
「不動産の所有権が、元の所有者から中間者に、次いで中間者から現在の所有者に、順次移転したにもかかわらず、登記名義がなお元の所有者の下に残っている場合において、現在の所有者が元の所有者に対し、元の所有者から現在の所有者に対する真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記手続を請求することは、物権変動の過程を忠実に登記記録に反映させようとする不動産登記法の原則に照らし、許されないものというべきである。」
ということでした。

これは、つまり、所有権がY→A→Xという経路で移転しているのにもかかわらず、Y→Xという移転登記手続を請求することは物件変動の過程を「忠実に」反映させようとする不動産登記法の原則に反するのでダメだということのようです。
こういうのを中間省略登記というのですが、既になされている中間省略登記は、利益がなければ抹消請求できませんが、全員(本件で言えば、XAY)の同意がなければ、新たな中間省略登記は請求できません。
本件も同様に判断したのだと思います。

では、Xはどうしたらいいのか。これについても述べています(判旨のX1はXのことです。)。

「上告人名義で登記されている持分につき、上告人からAに対する本件贈与を原因とする移転登記手続を請求し、その認容判決を得た上で、Aから被上告人X1に対する本件相続を原因とする持分移転登記手続をすべき」
つまり、X→Aの贈与を原因とする移転登記手続を請求して認容判決を得てX→Aの登記をして、その後、A→Xへの相続を原因とする持分移転登記手続をすることになります。

ところで、Xは、このような主張はしていません。Xは、また一から訴訟をやり直さないといけないのでしょうか。

これについても述べています。
「本件訴訟における被上告人X1の主張立証にかんがみると、被上告人X1の反訴請求は、これを合理的に解釈すれば、その反訴請求の趣旨の記載にかかわらず、予備的に、本件土地について本件贈与を原因とする上告人からAに対する上告人持分全部移転登記手続を求める趣旨を含むものであると理解する余地があり、そのような趣旨の請求であれば、前記事実関係等の下では、特段の事情のない限り、これを認容すべきものである。」
「被上告人X1の反訴請求については、事実審において、適切に釈明権を行使するなどして、これが上記の趣旨の請求を含むものであるのか否かにつき明らかにした上、これが上記の趣旨の請求を含むものであるときは、その当否について審理判断すべきものと解される。」
Xの主張を合理的に解釈すれば、記載にはないけど、予備的に上記のような主張をするという趣旨も含んでいるのではないかと述べています。
そして、釈明権を行使して、上記のような主張の趣旨を含んでいるのか明らかにしなさいという意味で、判決を差戻ししたのです。

差戻されたら、普通は、含んでいるとハッキリ言うでしょう。



平成22年12月07日株式価格決定申立て却下決定に対する抗告審の取消決定に対する許可抗告事件〜少数株主権行使と個別株主通知

平成22年12月07日株式価格決定申立て却下決定に対する抗告審の取消決定に対する許可抗告事件
最三決平成22年12月07日



抗告人(X社:マザーズ上場)は、普通株式のみを発行しており、平成21年1月5日以降、社債等振替法128条1項所定の振替株式(株券を発行する旨の定款の定めがない会社の株式(譲渡制限株式を除く。)で振替機関(社債等振替法3条第一項の規定により主務大臣の指定を受けた株式会社)が取り扱うもの)となった。
X社は、A社の完全子会社となることを同意し、公開買付けを実施し、A社は、8割以上の株式を取得した。
X社は、残りの株式を取得するため、定時及び種類株主総会において、X社普通株式を全部取得条項付種類株式とし、X社がこれを取得する場合は、対価として優先株式を交付する旨の定款変更をし、8月5日に全部取得条項付種類株式の全部を取得すると決議しました。
Yさんは、総会に先立ち反対の通知をし、総会において反対の議決権を行使しまし、7月10日には、保有株式400株について会社法172条1項1号に基づく価格の決定の申立をしました。なお、この400株には、総会後に買い増しした17株が含まれていました。
Yさんは、所定証券会社に個別株主通知の申出書を郵送しましたが、X社株式が上場廃止と扱われ、個別株主通知が出来なくなり、行われませんでした。
Yさんは、前記総会の基準日を定めたことにより受けた総株主通知(社債等振替法151条1項1号)には、383株を有する株主と記載され、全部取得条項付種類株式を取得する日の株主を確定するための基準日を定めたことにより受けた総株主通知には、420株を有する株主と記載されました。

以上のような経過を辿ったYさんが、会社法172条1項1号に基づきX社による全部取得条項付種類株式の取得の価格の決定を求める事案です。


これに対して、X社は、振替株式についての少数株主権等の行使は、社債等振替法第154条第3項の個別株主通知がされたあと政令で定める期間(4週間)が経過する日までの間でなければ、行使することができないことから、個別株主通知がなされていないなどと主張して、申立の適法性を争いました。


原々決定は、申立を却下しました。
しかし、原審は、以下の理由で、これを覆しました。
会社は、2回にわたる総株主通知を受けることにより、株主総会の基準日の株主のみならず、会社による全部取得条項付種類株式の取得及び株主への取得対価の交付の基準日(以下「取得の基準日」という。)の株主を確認することができるのに対し、個別株主通知を受けたとしても、取得の基準日の株主を確認することはできないから、これら総株主通知とは別に個別株主通知を受けるメリットはない。
会社法172条1項所定の価格決定申立権の行使に個別株主通知がされることを要するとすると、振替株式を発行する会社である株券電子化会社の株主に対し、通常の会社の場合よりも著しい負担を課すことになる。
4週間(社債等振替法施行令40条)の権利行使期間が認められている個別株主通知の制度を20日間の申立期間しか認められていない上記価格決定申立権に適用することには、制度設計上の無理もある。
上記価格決定申立権は、会社法124条1項に規定する権利又は類推適用すべき権利であって、社債等振替法154条1項、147条4項にいう「少数株主権等」に該当しないというべきであるから、その行使に際しては個別株主通知がされることを要しない。

とし、仮にそうでないとしても、

X社は、各総株主通知、反対の通知、反対の議決権行使により、YさんがX社の株式を保有し続けており、その価格決定申立権の行使を否定すべき実質的な理由がないことを知りながら、自らが株券電子化会社であることを奇貨として、個別株主通知の欠けつのみを理由に相手方の権利行使を否定しようとするものであって、背信的悪意者に準ずるとして、会社法172条1項所定の価格決定申立権の行使に個別株主通知がされることを要すると主張することは、信義則に反し、権利の濫用に当たるとしました。

これに対し、本決定は、

価格決定申立権を「少数株主権等」にあたるとしたうえで、
社債等振替法154条が、振替株式についての少数株主権等の行使について会社法130条1項の規定を適用せず、個別株主通知がされることを要するとした趣旨は、
総株主通知は原則として年2回しか行われないため(社債等振替法151条、152条)、総株主通知がされる間に振替株式を取得した者が、株主名簿の記載又は記録にかかわらず、個別株主通知により少数株主権等を行使することを可能にすることにある。
そして、総株主通知と異なり、個別株主通知において、振替口座簿に増加又は減少の記載又は記録がされた日等が通知事項とされているのは(社債等振替法154条3項1号、129条3項6号)、少数株主権等の行使を受けた会社が、振替株式の譲渡の効力発生要件(同法140条)とされている振替口座簿の上記記載又は記録によって、当該株主が少数株主権等行使の要件を充たすものであるか否かを判断することができるようにするためである

として、上記会社にとって、総株主通知とは別に個別株主通知を受ける必要があるとし、

同じ会社の振替株式であっても、その売買が短期間のうちに頻繁に繰り返されることは決してまれではないことから、複数の総株主通知においてある者が各基準日の株主であると記載されていたということから、上記各基準日の間も当該振替株式を継続的に保有していたことまで当然に推認されるものではないことから、これらの総株主通知をもって個別株主通知に代替させることできない。


社債等振替法154条2項が、個別株主通知がされた後の少数株主権等を行使することのできる期間の定めを政令に委ねることとしたのは、個別株主通知がされた後に当該株主がその振替株式を他に譲渡する可能性があるために、振替株式についての少数株主権等の行使を個別株主通知から一定の期間に限定する必要がある一方、当該株主が少数株主権等を実際に行使するには相応の時間を要し、その権利行使を困難なものとしないためには、個別株主通知から少数株主権等を行使するまでに一定の期間を確保する必要もあることから、これらの必要性を調和させるために相当な期間を設定しようとすることにあるのであって、少数株主権等それ自体の権利行使期間が、社債、株式等の振替に関する法律施行令40条の定める期間より短いからといって、個別株主通知を不要と解することはできない。


個別株主通知は、社債等振替法上、少数株主権等の行使の場面において株主名簿に代わるものとして位置付けられており(社債等振替法154条1項)、少数株主権等を行使する際に自己が株主であることを会社に対抗するための要件であると解される。
そうすると、会社が裁判所における株式価格決定申立て事件の審理において申立人が株主であることを争った場合、その審理終結までの間に個別株主通知がされることを要し、かつ、これをもって足りるというべきであるから、振替株式を有する株主による上記価格決定申立権の行使に個別株主通知がされることを要すると解しても、上記株主に著しい負担を課すことにはならない。

として破棄しました。


少し酷な気もしますが、
申立までに個別株主通知をしろという見解もあったので、審理終結までに個別株主通知がされることを要するとしたのは収穫かな。



平成22年12月02日債権差押命令に対する執行抗告棄却決定に対する許可抗告事件〜集合物譲渡担保権者の物上代位権

平成22年12月02日債権差押命令に対する執行抗告棄却決定に対する許可抗告事件
最一決平成22年12月02日


魚の養殖業者が、養殖施設内の養殖魚を担保とする譲渡担保権設定契約をXさんと契約しました。その契約の中で、養殖業者は、この養殖魚を通常の営業方法に従って販売できることと、その場合は、同価値以上の養殖魚を補填することを定めていました。
簡単に言うと、養殖場内の魚、仮にハマチとしますか。ハマチに譲渡担保を設定して貸金の担保にしましたが、養殖業者は、普段どおりにハマチは売っても良い、ただし、ハマチを売ったら売った分のハマチ(または、ハマチ以上の価値のあるシマアジ)を補充すること、という契約を結んだと言うことです。
ところが、このハマチが赤潮で大量死してしまいました。
養殖業者は漁業共済に加入していましたので、共済組合から漁業救済金を貰える権利(共済金請求権)を取得しました。
しかし、養殖業者は新たな融資を受けられず廃業。残りのハマチを全部売って、Xさんへの借金を一部返済しましたが、返済しきれませんでした。
そこで、Xさんは、譲渡担保権に基づく物情代位権の行使として、この共済金請求権を差押えの申立をし、債権差押え命令が発布されました。
これに対し、養殖業者は、執行抗告をしました。

原審は、本件の譲渡担保権の効力がこの共済金請求権に及ぶとしてXさんの主張を認め、養殖業者の執行抗告を棄却しました。


最高裁は、構成部分の変動する集合動産を目的とする集合物譲渡担保権は、譲渡担保権者において譲渡担保の目的である集合動産を構成するに至った動産(以下「目的動産」という。)の価値を担保として把握するものであるから、その効力は、目的動産が滅失した場合にその損害をてん補するために譲渡担保権設定者に対して支払われる損害保険金に係る請求権に及ぶと解するのが相当である。
もっとも、構成部分の変動する集合動産を目的とする集合物譲渡担保契約は、譲渡担保権設定者が目的動産を販売して営業を継続することを前提とするものであるから、譲渡担保権設定者が通常の営業を継続している場合には、目的動産の滅失により上記請求権が発生したとしても、これに対して直ちに物上代位権を行使することができる旨が合意されているなどの特段の事情がない限り、譲渡担保権者が当該請求権に対して物上代位権を行使することは許されないというべきである。


として原審の結論を是認しました。


つまり、養殖場のハマチのように入れ替わる物(動産)を目的としている譲渡担保権は、譲渡担保権者においては、集合動産(養殖場内のハマチ全体)を構成している動産(ハマチ)の価値を担保にしているので、ハマチが滅失すれば、その損害を填補するために支払われる損害保険金請求権に及びます。
ただし、本件のように養殖場内のハマチを目的とする場合、養殖業者がハマチを売って営業を継続することが前提となっているので、養殖業者がハマチを売って営業を継続している場合には、合意がなされているなどの特段の事情がない限り、この損害保険金請求権に物上代位権を行使できないとしています。
営業を継続する場合、損害保険金を受け取った養殖業者は、そのお金でハマチを追加すればいいですが、養殖業者がハマチを追加しなかったらどうなるのか。追加する義務があるのか。あると解釈することも不可能ではないと思いますが、やはり譲渡担保契約を締結する際は、物上代位権行使も含めて、どのような特約を入れるか検討しておいた方が良さそうです。

プロフィール

弁護士ぐすく

こんにちは、うふぐすくです
うふぐすくと申します。
うふぐすくとは、沖縄の読み方で、大和言葉では、大城となります。
当人は、沖縄出身ではなく、東京出身です。父方の家系が沖縄ですが、父の代から本土に住み着いております(母は純粋な本土の人間です。)。

事務所における取扱事件は、企業法務、債務整理、労働、不動産、賃貸借、遺言・相続、行政事件、顧問業務など多岐にわたっております。

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なお、当ブログは、リンク先法律事務所の公式のものではなく、個人で分室のようなものとして勝手に運営しているものであり、当ブログ記載の意見・見解は、リンク先法律事務所のものと同一ではございません。
プロフィール
横浜国立大学大学院国際社会科学研究科国際経済法学系経済関係法コース(修士)修了
修士論文「地方分権による自治体の条例化について〜土地利用規制条例を中心にして〜」

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税務特別委員会(H22~H24)
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労働相談、クレサラ相談等弁護士会法律相談センター法律相談担当


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