弁護士ぐすくのノート

継続的に勉強をしないといけないなあ。 ということで、その動機付けのために作ったページです。 余剰時間、興味の度合いによって、内容の精度は大きく変わります。 正確なところは、それなりの文献を調べて下さい。 したがって、記事の内容については、一切の責任を負いかねます。

2010年10月

平成22年10月22日損害賠償請求事件〜公開買付けをするべきか


最二判平成22年10月22日








上告人が、A社のC種類株主全員(2名)の同意を得て、C種類株式全部を公開買い付けによらずに買い付けたところ、A社の普通株主である被上告人が、


上告人は、C種類株式を買い付けるときに普通株式と共に公開買付によらなければならなかったのに、違法に公開買付によらなかったことにより、被上告人保有の普通株式を売却する機会を逸し、損害を被ったなどと主張して、


不法行為に基づく損害賠償を求めた事案です。





当時の証券取引法は、


有価証券報告書を提出しなければならない発行者の株券を、当該発行者以外の者が、取引所有価証券市場外で買付等を行う場合に公開買付によることを原則と定め、その例外の一つとして、「政令で定める株券等の買付け等」については、公開買付による必要はないと定めていました。


その政令においては、


1 株券等の所有者が少数である場合として内閣府令で定める場合であって、


2 当該株券等にかかる特定買付け等を公開買付けによらないで行うことに付、当該株券等の全ての所有者が同意している場合として内閣府令で定める場合における当該特定買付け等


と規定されており、


その内閣府令においては、


1の場合を、株券等の所有者が25名未満である場合


2の場合を、当該株券等にかかる特定買付け等を公開買付けによらないで行うことに同意する旨を記載した書面が当該株券等の全ての所有者から提出された場合


と規定されています。





当該政令と内閣府令に書いてある「株券等」に、買付けの対象とされた種類株式にかかる株券等(例えばC種類株式にかかる株券)のみならず、買付け対象外も含めた全ての株券等(例えば本券における普通株式にかかる株券)も含むのかが問題とされました。





原審は、全ての株券等が含むとし、全ての株券等の所有者は25名以上いるので、当該政令と内閣府令の要件を充たさないので、公開買付けによらないでできる場合にはあたらない。


それなのに、本件買付けを公開買付けによらないで行ったことは違法であって、不法行為にあたるとしました。





これに対して、最高裁は、


当該政令及び内閣府令が改正により、上記の公開買付けによらない新たな例外を設けた目的が、事業再編等の迅速化及び手続の簡素化を図る目的だったこと


事業再編等のためには、その再編等のために発行された特定の種類の株券等のみを特定買付け等をすることが必要な場合があること


その際、上場会社の発行する株券等の所有者は多数に及ぶこと


特定買付け等を行う者において買付けの対象としない他の種類の株券等があるとしても、その所有者の利害に重大な影響を及ぼすものではないこと





このような実情や改正目的などを考慮して、結論として


「株券等」には、特定買付け等の対象とならない株券等は含まれない。


として、不法行為を否定しました。











証券取引法、同法施行令(政令)、内閣府令などは、基本的に金融商品取引法等に引き継がれており、須藤正彦裁判官が補足意見で述べられています。


<現行関連法令>


金融商品取引法27条1項但書


施行令6条の2第1項7号


発行者以外の者による株券等の公開買付けの開示に関する内閣府令第2条の5


内容


1 当該株券等の所有者が二十五名未満である場合


2−1 特定買付け等の後における当該特定買付け等を行う者の所有に係る株券等の株券等所有割合とその者の特別関係者の株券等所有割合を合計した割合が三分の二以上となる場合であって、当該特定買付け等の対象とならない株券等があるとき 


 当該特定買付け等の対象となる株券等に係る特定買付け等を公開買付けによらないで行うことに同意する旨を記載した書面が当該特定買付け等の対象となる株券等のすべての所有者から提出され、かつ、買付け等対象外株券等についてイ又はロの条件が満たされている場合


イ 特定買付け等を公開買付けによらないで行うことに同意することにつき、当該買付け等対象外株券等に係る種類株主総会の決議が行われていること。


ロ 買付け等対象外株券等の所有者が二十五名未満である場合であって、特定買付け等を公開買付けによらないで行うことにつき、当該買付け等対象外株券等のすべての所有者が同意し、その旨を記載した書面を提出していること。


2−2 前号に掲げる場合以外の場合 当該特定買付け等の対象となる株券等に係る特定買付け等を公開買付けによらないで行うことに同意する旨を記載した書面が当該特定買付け等の対象となる株券等のすべての所有者から提出された場合


3 3項以降は、電磁的方法による場合の規定




平成22年10月19日詐害行為取消等請求事件〜詐害行為取消権の訴訟物の個数


最三判平成22年10月19日





<事案>


Aが、債務超過であるにもかかわらず、上告人に不動産持分を売却したところ、Aの債権者である被上告人が、詐害行為取消権に基づいて、上告人に対して、当該売買契約の取消と上告人への当該持分の移転登記の抹消登記手続を求めが事案です。





<本訴の流れ>


被上告人は、Aに対して二つの債権を持っていました。


一つは、C(株)に対する債権の連帯保証債権(甲債権)、もう一つは(有)Dに対する債権の連帯保証債権(乙債権)です。





被上告人は、当初、甲債権を被保全債権として、詐害行為取消権を行使していたのですが、別訴で和解が成立し、甲債権が消滅してしまいました。





そこで、被上告人は、被保全債権を乙債権に変更しました。





これに対し、上告人は、被上告人は、別件訴訟を提起した日(平成16年9月4日)には取消しの原因を知っていたのだから、乙債権を被保全債権とする詐害行為取消権については、民法426条前段により2年の消滅時効が完成を援用してきました。





原審は、本件訴訟の提起により、詐害行為取消権の消滅時効が中断したとして、被上告人の請求を認容しました。





これに対し、上告人は、所論は、被上告人が被保全債権を変更したことは、訴えの交換的変更に当たるから、乙債権を被保全債権とする詐害行為取消権には本件訴訟の提起による消滅時効の中断の効力は及ばないと主張しました。





<判旨等>


最高裁は、


詐害行為取消権の制度は、債務者の一般財産を保全するためのものであって、取消債権者の個々の債権の満足を直接予定しているものではないとしたうえで、


「詐害行為取消権は、取消債権者が有する個々の被保全債権に対応して複数発生するものではない」旨を述べています。





したがって、取消債権者の被保全債権に係る主張が交換的に変更されたとしても、攻撃防御方法が変更されたにすぎず、訴えの交換的変更には当たらないのだから、本件訴訟の提起によって生じた詐害行為取消権の消滅時効の中断の効力に影響がないとしました。





つまり、詐害行為取消権は、個々の債権の満足のためのものではなく、「債務者の一般財産」を保全するものだから、取消権が被保全債権ごとに複数発生するのではなく、債務者の一般財産の保全のために1個の詐害行為取消権が発生しているということのようです。





そうすると、訴訟物は、被保全債権ごとに○○債権を被保全債権とする詐害行為取消権に基づく本件売買契約の取消及び抵当権設定登記抹消請求権ではなく詐害行為取消権に基づく本件売買契約の取消及び抵当権設定登記抹消請求権1個ということですから、被保全債権が変更されたとしても、訴訟物の変更でなく、単なる攻撃防御方法の変更に過ぎないことになります。








民法第四百二十六条  第四百二十四条の規定による取消権は、債権者が取消しの原因を知った時から二年間行使しないときは、時効によって消滅する。行為の時から二十年を経過したときも、同様とする。




平成22年10月15日損害賠償請求事件〜労災保険法に基づく休業給付及び障害一時金(休業給付等)の損益相殺的調整


最二判平成22年10月15日





交通事故による怪我で後遺障害が残った上告人が、加害車両の運転者と加害車両の運行供用者に対して、自動車損害賠償保障法3条に基づき損害賠償を求めた事案です。





労災保険法に基づく休業給付及び障害一時金(休業給付等)について、どの部分に、どういう順序で損益相殺的調整をするか





上告人(被害者側)は、「本件休業給付等との間で行う損益相殺的な調整につき、これらが損害金の元本及びこれに対する遅延損害金の全部を消滅させるのに足りないときは、これらをまず各てん補の日までに生じている遅延損害金に充当し、次いで元本に充当すべき」


と主張しました。





最高裁は、平成23年9月13日の判決(裁判所時報1515号6頁)と同じく、


「被害者が不法行為によって損害を被ると同時に、同一の原因によって利益を受ける場合には、損害と利益との間に同質性がある限り、公平の見地から、その利益の額を被害者が加害者に対して賠償を求める損害額から控除することによって損益相殺的な調整を図る必要がある」





と述べ、





「被害者が、不法行為によって傷害を受け、その後に後遺障害が残った場合において、労災保険法に基づく各種保険給付を受けたときは、これらの社会保険給付は、それぞれの制度の趣旨目的に従い、特定の損害について必要額をてん補するために支給されるものであるから、同給付については、てん補の対象となる特定の損害と同性質であり、かつ、相互補完性を有する損害の元本との間で、損益相殺的な調整を行うべきものと解するのが相当である。」





と平成22年9月13日判決を引用し、


照)。





「本件休業給付等については、これによるてん補の対象となる損害と同性質であり、かつ、相互補完性を有する関係にある休業損害及び後遺障害による逸失利益の元本との間で損益相殺的な調整を行うべきであり、これらに対する遅延損害金が発生しているとしてそれとの間で上記の調整を行うことは相当でない。」





とし、





「本件休業給付等は、その制度の予定するところに従って、てん補の対象となる損害が現実化する都度、これに対応して支給されたものということができるから、そのてん補の対象となる損害は本件事故の日にてん補されたものと法的に評価して損益相殺的な調整をするのが相当である。」





平成22年9月13日判決の際、最二判平成16年12月20日裁判集民事215号987頁との関係がよくわからないと書いたところ、裁判官千葉勝美の補足意見がそれについて触れておられました。


「平成16年第二小法廷判決は、被害者が不法行為の当日に死亡した事案において、被害者の逸失利益と労災保険法に基づく遺族補償年金及び厚生年金保険法に基づく遺族厚生年金との損益相殺的な調整につき、上記各年金給付(以下、両者を併せて「遺族年金給付」という。)が支払時における損害金の元本及び遅延損害金の全部を消滅させるに足りないときは、遅延損害金の支払債務にまず充当されるべきものであると判断している。」





そうなんです平成16年は、まず遅延損害金に充当すべきとしてるんです。





「本件は、被害者が不法行為により傷害を受け、その後に後遺障害が残った事案であり、この点で平成16年第二小法廷判決とは前提となる事実関係に違いがある。」





事案が違うと言うことですか・・・





「平成16年第二小法廷判決の事案において被害者に生じた損害との間で損益相殺的な調整をすべきものとされた遺族年金給付は、被害者の死亡の当時その者が直接扶養する者のその後における適当な生活の維持を図ることを目的として給付されるものであり」「、被害者の逸失利益そのもののてん補を目的とするのではなく、それに生活保障的な政策目的が加味されたものとなっており、損益相殺的な調整の可否についての前提が本件と異なっているとみる余地がある。」





余地?





「すなわち、本件休業給付等は、労働することができなかったために受けることができない賃金のてん補や、労働能力が喪失ないし制限されることによる逸失利益のてん補を目的とするものであるが、遺族年金給付は、そこまでの費目拘束があるとはいえない。」





費目拘束の程度の違いですか?そんなに違うのかなあ。もう少し理由が知りたい。





「もっとも、遺族年金給付によるてん補の対象となる損害は、被害者が被った損害すべてではなく、基本的には給与収入等を含めた逸失利益全般であるというべきであるから、損益相殺的な調整の対象となる損害も遺族年金給付の趣旨目的に照らし、これと同性質で、かつ、相互補完性を有する損害の範囲に限られるものというべきであり、その点では、本件の場合と同じ考え方を採る余地があるのではなかろうか。」





そんな気がします。





「すなわち、上記の調整の対象となる損害に被害者の逸失利益に係る元本のほか遅延損害金をも含むとする平成16年第二小法廷判決の判断を改め、被害者が不法行為により長期の療養を経ることなく死亡した場合にあっても、労災保険法に基づく保険給付や公的年金制度に基づく年金給付については、それぞれの制度の趣旨目的に照らし、逸失利益の元本との間で損益相殺的な調整をすべきであり、また、上記の各給付が制度の予定するところと異なってその支給が著しく遅滞するなどの特段の事情のない限り、これらが支給され、又は支給されることが確定することにより、そのてん補の対象となる損害が不法行為の時にてん補されたものと法的に評価するのが相当であるとも考えられる。」





こう考える方が整合性があるような気がするのですが・・・。





「これらの点については,今後,更なる検討を要するといえよう。」





結局、まだよくわからない。




平成22年10月15日相続税更正処分取消請求事件〜還付金と相続財産


最二判平成22年10月15日






  • 上告人の母が、所得税更正処分等の取消訴訟を提起していたところ、訴訟係属中に死亡し、上告人が訴訟を承継し、処分等の取消判決を勝ち取り確定した。これにより所得税等の過納金が上告人に還付されたところ、所轄税務署長から還付金請求権は相続財産を構成するとして相続税の更正処分を受けたため、上告人が更正処分の一部取り消しを求めた事案である。






  • 第一審は、上告人が勝訴したそうです。


しかし、原審は、上告人逆転敗訴、上告審でも上告人が敗訴しました。






  • 本件での主要な争点は、


本件過納金の還付請求権が、相続財産を構成するかという点のようです。





上告人は、本件過納金の還付請求権は,別件所得税更正処分の取消判決確定により初めて発生し,A(上告人の母)の相続開始時には訴訟係属中でまだ発生していなかったのだから相続財産を構成せず,原始的に被控訴人に帰属すると主張しています。






  • 判旨は、


取消訴訟判決が確定すると、行政処分の効果は、処分時に遡って効力を失う。


すると、処分に基づいて納付された納付された所得税,過少申告加算税及び延滞税は,納付の時点から法律上の原因を欠いていたこととなる。


そうすると、これら所得税等にかかる過納金の還付請求権は、納付時点で既に発生していたことになる。





つまり、簡単に言うと、別件所得税更正処分の取消判決確定によって、別件所得税更正処分は、最初から効力がないことになり、効力がないのに所得税等を納めさせてしまったのだから、納付した時点でこれらは、返さなければいけないお金だったのだということです。


で、返すべきお金となった時点(納付時)は、まだ上告人の母の存命中だったのだから、この返せという請求権も上告人の母の存命中に発生した上告人の母の財産であって、上告人の母が死亡すれば、その相続財産に含まれるんだ、としたのです。





そこで、結論として、上記所得税等に係る過納金の還付請求権は,被相続人の相続財産を構成し,相続税の課税財産となるとして原審の判断を是認しました。





なお、この事件は、原審も最高裁のHPに載っています。税務の強い法律事務所が上告人の側についており、他にも様々な主張を述べていて、なるほど良く思いつくななどと、なかなか面白いです。






  • 原審で上告人の主張をいくつか否定しているのですが、主なものを載せておきます。


「別件所得税更正処分が重大かつ明白な瑕疵により無効なのか,取り消し得べき瑕疵を有しているのかは,いずれも確定判決を待たなければ判明しないにもかかわらず,無効判決だった場合は還付請求権は納付時に発生しているので相続財産となり,取消判決だった場合は相続財産から外れることになる。このように,更正処分の瑕疵の重大性,明白性如何により相続財産性が左右されるのは相当ではない。」





処分が無効の瑕疵なのか取消うべき瑕疵なのかで相続財産かどうかが変わってしまう。とくに無効の瑕疵の方が重いのに、この場合、相続財産になり相続税が課されることは、バランスが悪いとも言えます。





「また,取消判決の確定時にAが存命であれば,当然本件過納金は相続財産となったにもかかわらず,訴訟係属中にAが死亡したという偶然のできごとによって,同じ本件過納金が相続財産とならなくなる。しかし,このように偶然のできごとによって相続財産性が左右されるのは相当ではない。」





還付金そのものは、不課税なんですよね。




平成22年10月14日請負代金請求事件〜リンク条項で中間業者が倒産した場合


最一判平成22年10月14日








指名競争入札により、浄水場内の監視設備工事を請け負ったAは、この工事のうち浄水場内の監視設備機器(本件機器)の製造等を、A→B、B→C、C→D、D→被上告人、被上告人→上告人と、順次発注し、それぞれ請負契約が締結されたところ被上告人が請負代金を支払わなかったために上告人が請負代金の支払を求めた事案です。





本件の経緯は、次のとおりでした。



  • 上告人の働きかけでAが上記製造等を上告人に行わせることにした。

  • 上告人も入札に参加していたことから、Aと上告人の間に子会社、関係会社を介在させることにし、Aは、Cに介在会社の選定を任した。

  • Cは、被上告人に対し、受注先からの入金がなければ発注先に請負代金の支払いはしない旨の特約(入金リンク)と付するから被上告人にリスクはないと説明した。

  • 被上告人は、帳簿上の売上を伸ばすことにより山梨県の経営事項審査の点数を増加させ、大規模公共工事受注の可能性を増せることなどから受注することにした。

  • Aは、上告人に対する発注者を被上告人とすることを上告人に打診した。

  • 上告人は、被上告人の与信調査を行い、これを応諾する旨回答した。

  • 上告人と被上告人との間で、本件請負契約が締結された。

  • 上告人と被上告人とは、本件請負契約の締結に際し、入金リンク条項がある注文書と請書とを取り交わした。

  • 上告人は、本件機器を完成させ、本件機器をAに引き渡した。

  • AはBに請負代金を支払い、BはCに請負代金を支払った。

  • Cは、平成18年4月、破産手続開始の決定を受け、平成19年1月、破産手続廃止の決定を受けた。

  • 被上告人は、本件機器の製造等に係る請負代金の支払を受けていない。





原審は、


被上告人がCから入金リンクの説明を受けていてリスクがないと考えていたことや、上告人も実質的には被上告人にAの支払う請負代金を通過させる役割しか負わせていないことなどから、本件入金リンク条項は、被上告人が請負代金の支払を受けることを停止条件として請負代金を支払うことを定めたものであるとして上告人の請負代金請求を棄却しました。





これに対して、最高裁は、


「一般に、下請負人が、自らは現実に仕事を完成させ、引渡しを完了したにもかかわらず、自らに対する注文者である請負人が注文者から請負代金の支払を受けられない場合には、自らも請負代金の支払が受けられないなどという合意をすることは、通常は想定し難いものというほかはない。」


とし、本件請負契約が、代金額が3億1500万円と高額であること


本件が公共事業に係るものであって発注者からの請負代金の支払は確実であったことから、順次請け負った各下請負人に対する請負代金の支払も順次確実に行われることを予定していた


ことから、上告人が、契約上の債務を履行したのに、被上告人が請負代金の支払を受けられない場合、請負代金を受領できなくなることを承諾していたとは到底解し難い。


として、


「有償双務契約である本件請負契約の性質に即して、当事者の意思を合理的に解釈すれば、本件代金の支払につき、被上告人が上記支払を受けることを停止条件とする旨を定めたものとはいえず、本件請負契約においては、被上告人が上記請負代金の支払を受けたときは、その時点で本件代金の支払期限が到来すること、また、被上告人が上記支払を受ける見込みがなくなったときは、その時点で本件代金の支払期限が到来することが合意されたものと解するのが相当である。」


としました。





契約条項を当事者の合理的意思解釈と言う形で裁判所が補足、修正が出来るのかというのは、取引の予測可能性や私的自治への介入等々難しい問題がありますが、本件では、公共事業であり、まず大元の発注者から請負代金は確実に支払われ、その代金は、単なる介在者(談合疑惑逃れのため?)を通過し順次末端の請負人に流れていくことが想定されており、途中に破産者が生じてその流れが途中で止まることは想定し難かったことから、介在者が支払い不能となった場合までリンク条項は想定していなかったと見ることも出来ます。


そうすると、リンク条項は、通常時において、上から下へと順調に代金が流れていくことを前提に、直前の発注者から支払を受けるまでは支払わない、逆に言うと、直前の発注者から支払を受けたら請負人に支払うという、ある種の期限(方法)を定めたものに過ぎず、途中で流れがストップして流れなくなった場合までは想定していないと解釈することも不可能ではないということではないかと思われます。


上告人が被上告人の与信調査をしていることも、上告人が、流れが止まるなど何らかの事情で被上告人が請負代金を支払わないときに、被上告人の資力をあてにしていたと見ることも出来ます。もし、この場合に上告人が被上告人の支払を諦めるつもりであれば、請負契約締結にあたり、流れが止まるか否かを調査するために、介在者全員の与信調査が必要となったはずです。





したがって、公共事業ではなく、発注者に倒産リスクがある場合や介在者に固有の利益がある場合(単なる通過人と言えない場合)には、同様に判断されるとは限らないでしょう。





もっとも、このような契約を打診された場合、手を出さないのが無難ですが、どうしてもと言うならば、上流の者全ての与信調査をするか、Aなど上流の者の支払保証を要求し、リスクをしっかり把握した上で、決断すべきだったと言うことでしょう。




平成22年10月14日雇用関係存在確認等請求事件〜信義則違反と釈明義務


最一判平成22年10月14日





本件は、某大学の助教授が定年規定により満65歳で定年退職になると伝えられ、退職辞令を受けたのに対し、某大学教育職員は、現実には70歳を超えて勤務する者が相当多数存在しており、定年規定はないに等しく、理事も80歳くらいまで勤務することは可能であるとの趣旨の話をして、そのように認識していたことから、某大学との間で定年を80歳とする合意があったと主張して、雇用契約上の地位を有することの確認並びに未払賃及び将来の賃金等の支払を求めた事案です。





原審は、本件合意があったとは認められないとして地位確認請求を棄却しましたが、某大学には、少なくとも、定年退職の1年前までに、被上告人に対し、定年規程を厳格に適用し、かつ、再雇用をしない旨を告知すべき信義則上の義務があったとして、賃金請求について、一部を認容しました。





これに対し、最高裁は、


当事者双方とも、某大学が定年規程による定年退職の効果を主張することが信義則に反するか否かという点については主張しておらず、本件の争点は本件合意の存否である旨が確認されていたのに、信義則違反を理由に一部認容したことについて、





信義則違反の点についての判断をするのであれば、原審としては、適切に釈明権を行使して、被上告人に信義則違反の点について主張するか否かを明らかにするよう促すとともに、上告人(某大学)に十分な反論及び反証の機会を与えた上で判断をすべきとして、





原審には、釈明権の行使を怠った違法があるとして、原審を破棄し、差し戻ししました。








弁論主義の原則からは、裁判所は、当事者が主張していない事実を認定して裁判の基礎とすることは許されないとされています。そして、弁論主義は、権利の発生、変更、消滅といった法律効果を判断するのに直接必要な事実である「主要事実」に適用されるとされています。


すると、当事者が信義則違反の点を主張していないのに、それを認定して裁判をすることは、弁論主義に違反するようにも見えます。


しかし、信義則のような一般条項については、信義則というのは、そういう事実と言うより、ある事実を評価して成立するものです。つまり、ある事実が認定されて、「う〜ん、これは信義則に違反するねえ」というふうに評価(法的判断)して成立します。


そのため、信義則という認定された事実に基づく評価(規範的評価)ではなく評価の根拠となる事実(評価根拠事実)が主要事実(ないし主要事実に準ずるもの)であるとする見解がかなり有力となっています。


そうすると、信義則の成立を基礎づける具体的事実そのものが主張されていれば、信義則に反するか否かの主張がなくても、弁論主義には違反しないようにも思えます。





ですが、いきなり誰もいっていない信義則が認定されたらどうでしょう。


「信義則が認定されるなら、信義則の根拠となる事実について、もっと争ったのに・・・」


となります。





つまり、当事者、とりわけ敗訴者側にとっては、これは不意打ちになり、手続保障上好ましくありません。


そこで、裁判所としては、釈明権を行使して「信義則の点を主張しますか」とすれば、この点が争点となり、十分な反論反証の機会が得られます。


釈明権というと裁判所の権利のようにも見えますが、適切な釈明権を行使することは、義務でもあるので、これを怠った場合は、違法となる場合があります。





差し戻されて、信義則について争って、どういう結果になるのか。某大学側がどういう反論をしてくるかですかね。




小沢氏側が、検察審査会の議決に対し、無効確認訴訟をしたらしい。





以前、同様の事案では、検察審査会の議決は、起訴を強制するものではないから処分性がないとして蹴られています。





処分性というのは、「国又は公共団体が行う行為のうち、その行為によって直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められているもの」などという定義が最高裁の判例から定義づけられていて、これにあたらないと行政訴訟は却下されてしまいます。





以前の事例では、検察審査会の議決は、検察に起訴を強制してないのであるからという理由で蹴られています。つまり、「直接国民の義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められている」わけではないので処分性がないということでしょう。





しかし、今は、「起訴が強制されている」ということで、処分性が認められると再チャレンジをすることとなりました。





さて、素直に裁判所は認めてくれるのか?





それとも・・・検察審査会の議決を争わなくても、起訴の段階で争えば足りる。そして、起訴処分については、行政訴訟では争えない。刑事裁判の中で争ってくれ。


っていう感じで、ばっさり切られたりして。





起訴の段階で争えと言うのは、行政計画でよく見られた一種の青写真論に近い発想ですが、こういう論理を採るのか?


検察審査会の議決と検察の起訴を一連に捉えれば、公訴権濫用論同様に、刑事手続内で争えば良いという考えもなくはないのかな。





被起訴者の救済の観点からすれば、早く争えるに越したことはないだろうが。





あと、無効確認訴訟で審査会の議決が無効となった場合、後行の起訴が無効になるかは、また争点となり得る。違法性の承継の問題だ。確かに、審査会の議決がなければ起訴はなかったのだが、それ自体が起訴手続に違法性を生じさせるかは、また別に検討の余地がある。





それと、刑事手続が執行停止されずに先行すると、先に有罪判決が出たあとに、無効確認がされたらどうなるのだろうか?





もし、違法性が承継されるとして、有罪判決が取り消されたとすると、本来有罪であったのに起訴しなかった検察の問題にもなる。また、小沢氏自身に対する世論の風当たりも強くなる。小沢氏側は、審査会の違法な議決がなければ有罪判決はでず、損害を被らなかったのだから国家賠償請求でもするのか?





けっこう複雑だ。




株式会社の新設分割が詐害行為取消権の対象となることが肯定された事例


東京地判平成22年5月27日金融・商事判例1345号26頁





最近、会社分割を利用した債務逃れがしばしば起きているようです。


債務者が、会社を新設して、メイン事業を承継させ、取引債権債務も承継させたくせに、事業融資の債務は承継させず、すっからかんになった会社に残しておくというパターンです。いくら新設会社の株式をもっているから資産が変わらないなんて現実に通用するのかと非常に疑問に思っておりました。


業界に入りたての頃、この種の事案に直面して、赤面ものの回答をしてしまったという苦い思い出があります。





本件において、以下の点が争点となっています。


○新設分割は詐害行為取消権(民法424条)の対象になるか


※ 原告


新設分割も財産の移転を要素とするものだから財産権を目的とする法律行為にあたり詐害行為取消権の対象となる。事業譲渡と変わらないと言う主張です。


※ 被告


組織行為だから財産権を目的とする法律行為でないので詐害行為取消権の対象とならない。


※ 判例


「新設分割は、新設分割会社がその事業に関して有する権利義務の全部又は一部を新設分割設立会社に承継させる法律行為であり、その事業に関して有する権利義務であるから、新設分割は、財産権を目的とする法律行為にほかならない」。


として、原告と同様の立場に立ちました。





○分割無効の訴えとの関係


※ 被告


詐害行為取消権を認めると、法的安定性が害されることを防止しようとして分割無効の訴えに拠らしめるとした会社法の趣旨が没却される。


※ 原告


新設分割設立会社への承継の対象とされなかった債務の債権者は、新設分割に異議を述べることができず(会社法810条1項2号)、分割無効の訴えも提起することも出来ないのだから、分割無効の訴えに制限があることとは関係ない。


※ 判例


会社法に基づく組織法上の法律行為であるからといって、直ちに民法の規定が制限又は排除されるのではない。制限又は排除されるのは、その趣旨の会社法の特則が存する場合であるとし、「会社法上、株式会社の新設分割について民法424条の適用を否定する明文の特則が存しない上、両制度はそれぞれ要件及び効果も異なる別個の制度であって」、新設分割について、「詐害行為取消権の対象とする必要性が高く」、「新設分割の詐害行為の効果が相対効を有するにとどまり、組織法上の新設分割の効力自体を対世効をもって取り消すものでないことからすると、会社法上、新設分割無効の訴えの制度があるからといって、株式会社の新設分割について詐害行為取消権の規定が妨げられる理由にはならない」


として、被告の主張を採用しませんでした。


また、価格賠償の効力しかないのだから新設分割の効力自体を否定することにはならないも言っています。





なお、判例は、


債務超過にある株式会社(新設分割会社)が、新設分割によって不利益を受ける債権者を全く無視して、一方的に、新設分割によって任意に選択した優良資産や一部債務を新設分割設立会社に承継させ、新設分割会社はその対価の交付を受けるものの、その対価等を考慮したとしても、新設分割によって承継されない新設分割会社の債務の債権者(以下「新設分割会社の残存債権者」という。)が害されるという事案も少なからず存することは当裁判所に顕著である。


とも述べています。こういう悪質事例に対処する実務的要請もあるのでしょう。


また、取り残された債権者が新設分割無効の訴えを提起できるかについては、消極な考えも有力であり、詐害行為取消権の行使を認める必要性は高いとも述べています。


この点は、会社法が悪質事例に対処しきれていないと言う点で、なにがしかの不備があると言わざるを得ません。残存債権者は、手続的にも何も保護されていません。





さて、会社法が残存債権者のことを考えてくれていない原因ですが、被告が「本件会社分割によって、承継させた権利義務の対価として、」新設分割設立会社の「発行する株式全部(400株)の交付を受けており、経済的等価交換の原理によりその財産状況には全く変動がな」いということで、新設分割会社(元からあった方の会社)の残存債権者は、何も不利を被っていないじゃないかという点にあります。





しかし、こんな上場もされていない会社の株式をもっていたところで、何の価値がありましょうや。





この点も、判例は、新設分割会社がその対価として交付を受けた新設分割設立会社の設立時発行株式は、新設分割会社の債権者にとって、「保全、財産評価及び換価などに著しい困難を伴うものであって、その一般財産の共同担保としての価値が毀損され、債権者が自己の有する債権について弁済を受けることがより困難になったといえるから、本件会社分割は同被告の債権者である原告を詐害するものと認めることができる。」





現実的にはまさにそうで、詐害行為取消権が認められなければ、残存債権者は、事実上、債権が回収できなくなっていくのを、債務者が新しく作った会社がのんのんと営業していくのを見ながら手をこまねいていくしかなくなってしまいます。





以上のことから、この判例は基本的に妥当なものであると考えますが、詐害行為取消権しか使えないというのは、やはり違和感があります。また、会社分割の組織法上の効力と全く抵触しないのかと言われるとやや疑問もあります。


今後、債務逃れの手法として利用されていくおそれもあり、本来的には、何らかの立法手当、残存債権者を分割手続に関与させるなどの法策を講じるべきではないでしょうか。





この判例があのころあったらな。




平成22年10月08日遺産確認請求事件〜定額郵便貯金債権が現に被相続人の遺産に属することの確認を求める利益


最二判平成22年10月08日





本件は、相続人の子供達の間での争いであり、ある定額貯金が被相続人である親の遺産であるかが争われています。そのような状況の中、子の一部が、子の一部に対し、定額貯金が被相続人である親の遺産であることの確認を求めた事案です。





今回争点となっているのは、原告(被上告人)に確認の利益があるかであり、上告人は、


定額郵便貯金債権は,相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されて各共同相続人の分割単独債権となるのだから,遺産分割の対象とならない。したがって、定額郵便貯金債権が現に被相続人の遺産に属することの確認を求める訴えについては,その確認の利益は認められないと主張しました。





最高裁は、郵便貯金法は定額郵便貯金債権の分割を許容するものではなく,相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはない。


として、


定額郵便貯金債権の最終的な帰属は,遺産分割の手続において決せられるべきことになるのであるから,遺産分割の前提問題として,民事訴訟の手続において,同債権が遺産に属するか否かを決する必要性も認められる。


として、


共同相続人間において,定額郵便貯金債権が現に被相続人の遺産に属することの確認を求める訴えについては,その帰属に争いがある限り,確認の利益があるとして、確認の利益を認めました。





さて、債権が複数の相続人に相続されて、複数の者に帰属した場合、準共有という状態になり(民法264条)、債権が共有的に帰属する場合は、原則として分割債権となります(民法427条)。


そうすると、上告人の言うように相続の際に各共同相続人に分割されて、それぞれ分割された分を単独所有することになるので,遺産分割の対象とならなそうですが、





これに対して、分割されない理由としては、


郵便貯金法の定額郵便貯金に対する制限(7条1項3号、同条2項,郵便貯金規則83条の11)が定額郵便貯金に係る事務の定型化,簡素化を図るという趣旨であるとして、定額郵便貯金債権が相続により分割されると解すると,債権額の計算が必要となるので)、定額郵便貯金に係る事務の定型化,簡素化を図るという趣旨に反する。


また、相続により分割されるとしても,定額郵便貯金には、一定の据置期間の間分割払い戻しをしないという条件がついていることから、共同相続人は共同して全額の払戻しを求めるしかなく、単独で払い戻しを求められないのであるから分割されるとする意味もない


としています。


利子を含めて誰にいくら分割されて帰属するのかなどをいちいち計算していくと法の予定する大量の事務を迅速かつ画一的に処理しようという趣旨に反しますし、単独で行使できないという条件もついているので分割されるという意味がないということです。





古田佑紀裁判官の補足意見では、


定額郵便貯金は,分割払戻しをしないことが法律上条件とされている貯金で,全体として1個のものとして扱われることとされている債権であるとしています。


そして、この性質は、相続によって失われるものではないとしています。





千葉勝美裁判官の補足意見は、


「定額郵便貯金債権は,法令上,預入の日から起算して10年が経過するまでは分割払戻しができないという条件が付された結果,分割債権としての基本的な属性を欠くに至ったというべきである。」


「定額郵便貯金債権は,分割債権として扱うことはできず,民法427条を適用する余地はない。そうすると,預金者が死亡した場合,共同相続人は定額郵便貯金債権を準共有する(それぞれ相続分に応じた持分を有する)ということになり,同債権は,共同相続人の全員の合意がなくとも,未だ分割されていないものとして遺産分割の対象となると考えるべきである。」


としています。





事案が違うとされた最判昭29.4.8最高裁判所民事判例集8巻4号819頁に言う「相続人数人ある場合において、その相続財産中に金銭その他の可分債権あるときは、その債権は法律上当然分割され各共同相続人がその相続分に応じて権利を承継する」から、本能的に分割債権だと思ってしまいがちです。


定額郵便貯金にこのような話があることは知りませんでした。


債権は、当然に分割されるという感覚だったので、注意しないといけませんね。


貯金も預金も相続人が揉めていると面倒なんですよね。




契約社員に関するポイント





●有期労働契約とは


期間の定めのある労働契約


労働関係の始まりと終わりの時期が定められている労働契約





● 契約期間の上限


原則3年まで。更新も同じです。





☆注意点


期間を何回も更新する場合、更新が続くことへの労働者の期待、更新が暗黙の了解となっていると認定される場合、期間の定めのない労働者と変わらないという判断から、更新拒絶に解雇と同様の厳格な要件が要求される場合があります(最高裁昭和49年7月22日、昭和61年12月4日判決)。





〈判断要素〉


1 業務の客観的内容


従事する仕事の種類、内容、勤務の形態


例、仕事の中身が正社員とほとんど変わらないか


2 契約上の地位の性格


地位の基幹性、臨時性、労働条件が正社員と同一性があるか


例、非常勤講師(神戸弘陵学園事件最判平2.6.5労判564号7頁)


3 当事者の主観的態様


継続雇用を期待させる当事者の言動、認識の有無、程度等


例、会社が労働者に長期雇用を期待させる言動をした


4 更新の手続、実態


契約更新の状況、契約更新時における手続の厳格性の程度


例、期間満了のたびに新契約手続締結の手続を直ちにとっていない。


5 他の労働者の更新状況


同様の地位にある他の労働者の雇止めの有無


例、期間満了で雇止めされた例がほとんどない


6 その他


有期労働契約を締結した経緯、勤続年数、年齢等の上限の設定等





● 更新の有無の明示等


(労働基準法14条2項、有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準(平成15年厚生労働省告示第357号))


更新の有無、更新するかしないかの判断基準を契約締結や契約更新時に書面で明示することとされています。





※更新の有無の明示の例


「自動的に更新する」


「更新する場合があり得る」


「契約の更新はしません」





※更新するかしないかの判断基準の例


「契約期間満了後の業務量により判断する」


「勤務成績・態度により判断する」


「労働者の能力により判断する」


「会社の経営状況により判断する」


「従事している業務の進捗状況により判断する」





※雇止めをする際の予告


あらかじめ契約を更新しないことを明示している場合を除き、契約期間満了日の30日前までに、更新しないことを予告する。


予告後、労働者が雇止めの理由について証明書を請求した場合は、遅滞なく証明書を交付する。


予告につきましては、対象者を雇入れの日から起算して1年を超えて継続雇用されている者、有期労働契約が3回以上更新されている者に限るとはされていますが、トラブル防止の観点からは、なるべく行うことが望ましいと考えられています。





※雇止めの理由の明示例


前回契約更新時に、本契約を更新しないことが合意されていた。


契約締結頭書から、更新回数に上限を設けていた


担当業務が終了ないし中止した


事業縮小のため


業務遂行能力が十分でないと認められるため


職務命令に対する違反行為を行ったため


無断欠勤など勤務不良のため


など





※契約期間についての配慮


 使用者は、契約を1回以上更新し、かつ、1年を超えて継続して雇用している有期契約労働者との契約を更新しようとする場合は、契約の実態及びその労働者の希望に応じて、契約期間を出来る限り長くするよう努めなければならない。





● 就業規則について


 有期労働契約者に対する就業規則が存在しない場合、通常の就業規則が適用されます。


 したがって、通常の就業規則を適用しない場合には、適用される就業規則を明示すべきです。





※注意点


給料、労働時間など正社員と異なる扱いをする場合には、就業規則にそのことを明示する必要があります(そうでない場合、通常の就業規則の退職金規定が適用されてしまうおそれもあります。)。できれば「契約社員就業規則」のようなものを作成することが望まれます。


有期労働契約者がパートタイマーの条件を満たす場合(1週間の所定労働時間が同一の事業所に雇用される通常の労働者の1週間の所定労働時間に比べて短い労働者)には、パートタイマー就業規則が適用されます。


パートタイマーにあたらない場合でも、パートタイマーと労働条件が変わらない場合には、パートタイマー就業規則と一本化する方法も考えられます。別個に作成する場合にもパートタイマー就業規則を参考に作成されることが多いようです。


 なお、労働基準法上、就業規則に有期労働契約締結時の明示事項について明記しておらず、更新の有無と判断基準を就業規則に記載することは望ましいとはされていますが、必ずしも必要はありません。


 有期にする理由がさまざまであることから、一律に就業規則に記載することには困難な事情があると思われます。





● 有期労働者からの退職


いつでも可


ただし、予告期間が必要と解されています(民法628条準用)





● 期間満了による契約の終了


解雇でないので労働基準法20条の適用対象とはなりません。


しかし、期間中の解雇については解雇予告が必要です。


反復更新されて、継続雇用の期待が生じている場合にも、解雇予告制度が必要です。




プロフィール

弁護士ぐすく

こんにちは、うふぐすくです
うふぐすくと申します。
うふぐすくとは、沖縄の読み方で、大和言葉では、大城となります。
当人は、沖縄出身ではなく、東京出身です。父方の家系が沖縄ですが、父の代から本土に住み着いております(母は純粋な本土の人間です。)。

事務所における取扱事件は、企業法務、債務整理、労働、不動産、賃貸借、遺言・相続、行政事件、顧問業務など多岐にわたっております。

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なお、当ブログは、リンク先法律事務所の公式のものではなく、個人で分室のようなものとして勝手に運営しているものであり、当ブログ記載の意見・見解は、リンク先法律事務所のものと同一ではございません。
プロフィール
横浜国立大学大学院国際社会科学研究科国際経済法学系経済関係法コース(修士)修了
修士論文「地方分権による自治体の条例化について〜土地利用規制条例を中心にして〜」

東京弁護士会
税務特別委員会(H22~H24)
行政法研究部
知的財産権法部
自治体等法務研究部

労働相談、クレサラ相談等弁護士会法律相談センター法律相談担当


興味のあること
物理(宇宙の仕組み)、釣り(海)、小旅行(街歩き)、歴史(日本(特に土着の細かな勢力)、古代中国(〜東晋)、欧州(〜中世))
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