・パートタイマーって何?


パートタイム労働者(パートタイマー)は,パートタイム労働法によると,短時間労働者,つまり,「1週間の所定労働時間が同一の事業所に雇用される通常の労働者1週間の所定労働時間に比し短い労働者」のことをいいます。


ちなみに,通常の労働者とは,正社員などの正規労働者のことを言います。詳しくは,後述しますが,パートか正社員かは名称ではなく,実質で判断されます。パートと呼んでいるから待遇を下げたり,優先的に解雇しようとすると・・・


さて,パートタイム労働者には,パートタイム労働法というものが適用されます。正確には,「短期間労働者の雇用管理の改善等に関する法律」というのですが,主に事業者が守るべきルールを定めています。


では,早速内容を見てみましょう。


・(株)羽戸商会の社長さん,最近,細かな仕事が増えてきたので,人手が足りないと考えるようになりました。しかし,このご時世,正社員を雇うのも大変です。そこで,パートタイマーを雇うと考えました。


 さて,早速,募集広告を出そうと思います。


 ちょっと,その前に,


・パートタイム労働者用の就業規則を作っていますか?


事業主は,パートタイム労働者に適用される就業規則を作成する必要があります。


・パートタイム労働者用の就業規則がないと,とんでもないことになる・・・かも。


パートタイム就業規則がない場合,就業規則が適用される可能性があります。その場合,厳密には,パートタイマーにも退職金その他の規定が適用されることになります。


 さっそく(株)羽戸商会パートタイム就業規則も作成しました。


いよいよ,募集広告を出します。募集広告を見て集まってきた数人の応募者と面接をしました。


そして,気に入った一人と採用をすることにしました。


「○日から,来て下さい。」


「よろしくお願いします。」


「頑張って下さいね。」


固い握手を交わします。


 


 っと,これで終わって良いのでしょうか?


Q パートタイム労働者を雇うときに,どのような文書を交付すべきなのでしょうか?


☆ 労働条件の明示の義務(第6条)


 雇用の際(労働契約の更新時も含みます),労働条件を文書の交付などによって明示することが義務づけられています。


  


違反すると,行政指導があり,なお改善されない場合には,パートタイム労働者1人につき契約ごとに10万円以下の過料の対象となります。


・明示が義務づけられている事項


? 昇給の有無


? 退職手当の有無


? 賞与の有無


※なお,契約期間,仕事をする場所と仕事の内容,始業・終業の時刻や所定時間外労働の有無,休憩・休日・休暇,賃金,退職に関する事項などについては,労働基準法上,パートタイム労働者も含めて,雇用の際の明示が義務づけられています。


 さて,きちんと労働条件を書かれた労働契約書を交わしました。


 パートとして働き始めた戸波さん。あるとき,ふと,自分の賃金がどう決められているのか疑問に思い始めてしまいました。


 「私の賃金は,どういうふうに決められているのでしょうか?」


 「パートだから正社員の8掛けだよ。」


 これでいいのでしょうか?


Q パートタイム労働者から待遇の決定等について説明をされた場合,どうすればよいのでしょうか?


 ☆ 待遇の決定についての説明義務(第13条) パートタイム労働者から求められた場合,待遇を決定するに当たって考慮した事項を説明しなければなりません。





 説明義務が課される事項は,労働条件の文書交付等,就業規則の作成手続,待遇の差別的取扱の禁止,賃金の決定方法,教育訓練,福利厚生施設,通常の労働者への転換を推進するための措置です。


例えば,


パートタイム労働者から,


「賃金の決定方法について教えて欲しい。」と言われた場合には,「君はパートだから時給850円だ。」では,説明責任を果たしたとはいえませんので,職務の内容・責任の相違など相応の根拠を説明する必要があります。


 しかし,何度説明しても納得せず同じことを短期間に繰り返し説明を求めるような場合などは,パートタイム労働者が納得するまで説明する義務まではありません。


 「戸波さんの仕事の内容は○○で,○○までは責任がないから,こうこうこうで・・・」


 「そうですか。わかりました。」


 ところで,パートタイム労働者と正社員の待遇の違いは,どのように判断されるのでしょうか?この点,パート,正社員などといった名称の違いだけで差別的に扱ってはいけません。ちょっと嗜好は変わりますが,Q&Aで見てみましょう。


 ☆ 通常の労働者との均衡のとれた待遇の確保の推進


 パートタイム労働者の待遇については,通常の労働者との働き方の違いに応じて,均衡のとれた待遇を図ります。





Q パートタイム労働者と通常の労働者との違いは,どのように判断されるのでしょうか?


A パートタイム労働者と通常の労働者との違いは,


? 職務の内容(業務の内容及び責任)


? 人材活用の仕組みや運用等(人事異動等の有無及び範囲)


? 契約期間


によって判断されます。


?〜?まで通常の労働者と同一の(実質的に変わらない)場合には,賃金の決定,教育訓練,福利厚生施設の利用その他,全ての待遇について,通常の労働者と同様の取扱が求められます(8条・差別的取扱の禁止)。


Q 具体的には,どのように判断されるのでしょうか?


A 実質的に異なるかどうかは,


? 業務の内容が実質的に同じか。


  従事する中核的事業が通常の労働者と同じか,中核的事業が異なるとしても,必要な知識や技術の水準の観点から通常の労働者と同レベルと言えるかどうかという観点から判断されます。


? 責任の程度が著しく異なるか


  責任の程度が通常の労働者と著しく異なるか否かは,権限の範囲(単独で契約の締結可能な金額の範囲,部下の人数,決裁権限の範囲など),業務の成果について求められている役割,トラブル発生時や臨時・緊急時に求められる対応の程度,ノルマなどの成果への期待度などを総合的に比較して判断されます。


? 人材活用の仕組みや運用などが異なるか


  転勤の有無(見込み)・範囲を就業規則・事業所の人事システム・慣行などとも照らし合わせて,判断します。


  職務の内容の変更と配置の変更の有無について,人事異動による配置替え昇進などによる職務内容や配置の変更があるかどうかを比較します。さらに,経験する部署の範囲や昇進の範囲について,業務の性質などを考慮して,実質的に判断します。


? 契約期間が実質的に無期契約か


  期間を定めて労働契約を結んでいても,社会通念上期間の定めのない労働契約とされる場合があります。


  社会通念は,


⑴ 業務の客観的内容(恒常的業務か臨時的業務か通常の労働者の業務との違い)


⑵ 契約上の地位の性格(契約上の地位が基幹的か,臨時的か)


⑶ 当事者の主観的態様(継続雇用を期待させる事業者の言動や認識の有無)


⑷ 更新の手続・実態(反復更新の有無や回数,勤続年数,契約更新時の手続方法)


⑸ 他の労働者の更新状況(同様の地位にある労働者の雇い止めの有無)などから判断されます。


Q パートタイム労働者の賃金はどのように決定するのでしょうか?


A パートタイム労働者の賃金(基本給,賞与,役付手当等)は,通常の労働者との均衡を考慮しつつ,職務の内容,成果,意欲,能力又は経験等働きや貢献に応じて決定することが努力義務とされています(9条)。


 ??が通常の労働者と同一のパートタイム労働者については,同一である一定期間は,通常の労働者と同一の方法で賃金を決定することが努力義務とされています。


Q パートタイム労働者にも教育訓練は必要なのでしょうか?


A ?が通常の労働者と同一のパートタイム労働者については,その職務を遂行するにあたって必要な知識を身につけるために通常の労働者に実施している教育訓練をパートタイム労働者に対しても同様に実施することが義務づけられています(既に能力を身につけている場合は除きます)。


  また,全てのパートタイム労働者に対して,通常の労働者との均衡を考慮しつつ,職務の内容,成果,意欲,能力及び経験等に応じて,教育訓練を実施することが努力義務とされています(10条)。


Q パートタイム労働者の福利厚生はどのようにすればよいのでしょうか?


A 福利厚生施設のうち,通常の労働者が利用している給食施設,休憩室,更衣室について,パートタイム労働者にも利用の機会を与えるよう配慮することが義務づけられています。例えば,収容力に問題がある場合には,利用時間をずらす等の配慮が求められます(11条)。





 ところで,(株)羽戸商会ですが,なんとか頑張った結果,新規の事業も軌道に乗り始めてきて,少し資金的に余裕が出てきました。事業も順調に伸びてきているので,そろそろ正社員を雇用しようかと思います。


 さっそく,募集広告を・・・


 でも,パートで頑張っている戸波さんのことを忘れていませんか?


☆ 通常の労働者への転換の推進(12条)


 パートタイム労働者から通常の労働者への転換を推進するために,以下の措置のいずれかを講ずることが義務づけられています。


? 通常の労働者を募集する場合,その募集内容を既に雇っているパートタイム労働者に周知する。


 ※ 新卒採用のみの事業所については,周知のみでは応募対象者が限定されることから,?以外の他の措置をとる必要があります。


? 通常の労働者のポストを社内公募する場合,既に雇っているパートタイム労働者にも応募する機会を与える。


? パートタイム労働者が通常の労働者へ転換するための試験制度を設けるなど,転換制度を導入する。


 ※ 必要以上に厳しい要件を課している場合,法律上の義務が履行されていないと判断されることがあります。


? その他通常の労働者への転換を推進するための措置を講ずる。





 順調に業績を上げている(株)羽戸商会。気づくと,多少の出入りはありますが,パートタイマーは,いつも10人以上は働いているようにまでなりました。


 そろそろパートタイマーの人を管理する人が欲しいところです。


☆ 短時間雇用管理者の選任(15条)


 常時10人以上のパートタイム労働者を雇用する事業所ごとに短時間雇用管理者を選任する努力義務があります。


 パートタイマーが増えれば,いろいろ苦情も出てきます。でも外部の機関が拘わっていくのも大事になって大変ですし,時間や費用が無駄になります。できれば,会社の内部で誠実に解決を図っていきたいものです。


☆ 苦情処理(19条)


パートタイム労働者から苦情の申出を受けたときに,事業所内の苦情処理制度を通じて自主的な解決が図るようにする努力義務があります





 さて,以上は,パートタイム労働法を見てきましたが,厚労省がパートタイム労使関係に関して,指針を示しています。内容的には,当たり前のことですね。


※ パートタイム労働指針


 パートタイム労働指針(平成19年厚労省告示第326号)において,以下の指針が示されています。


1 労働関係法令の遵守


2 合理的理由のない労働条件の一方的不利益の禁止


3 パートタイム労働法の対象とならないフルタイムで働くパート(所定労働時間が通常の労働者と同一の有期契約労働者)に対するパートタイム労働法の趣旨の尊重


4 労働時間,労働日の決定・変更についての配慮


5 退職手当,通勤手当などについて,通常の労働者との均衡を考慮した配慮


6 パートタイム労働法対象外の福利厚生施設について,通常の労働者との均衡を考慮した配慮


7 パートタイム労働者との話し合いの促進


8 パートタイム労働者の不利益扱いをしないことの要請


9 短時間雇用管理者の指名の周知