最一判平成23年04月28日審決取消請求事件



<事案>
X(被上告人、特許権者)が特許権の存続期間の延長登録出願をし、拒絶査定されたことから拒絶査定不服審判請求をしたところ、審判請求不成立の審決がなされたため、当該審決の取消を求めた事案です。



平成9年3月6日:本件特許出願
平成12年12月1日:設定登録
本件特許に係る発明は、薬物を含んで成る核が、水不溶性物質、一定の親水性物
質及び一定の架橋型アクリル酸重合体を含む被膜剤で被覆された放出制御組成物に
関する発明である。
平成17年9月30日:X:有効成分を塩酸モルヒネとし、効能及び効果を中等度から高度の疼痛を伴う各種癌における鎮痛とする本件医薬品につき、薬事法14条1項による製造販売の承認(本件処分)を受ける。
・本件処分よりも前に、有効成分並びに効能及び効果を本件医薬品のそれと同じくする医薬品(本件先行医薬品」)につき、薬事法14条1項による製造販売の承認(本件先行処分)がされている。本件先行医薬品は、本件特許権のいずれの請求項に係る特許発明の技術的範囲にも属しない。
平成17年12月16日:X:本件特許権の存続期間の延長登録出願→拒絶査定→拒絶査定不服審判の請求
平成20年10月21日:特許庁:本件処分よりも前に、本件医薬品と有効成分並びに効能及び効果を同じくする本件先行医薬品について本件先行処分がされているのであるから、本件特許権の特許発明の実施について、本件処分を受けることが必要であったとは認められないとして、上記審判の請求を不成立とする審決(本件審決」)。


<判旨の概要等>
上告棄却
「特許権の存続期間の延長登録出願の理由となった薬事法14条1項による製造販売の承認(以下「後行処分」という。)に先行して、後行処分の対象となった医薬品(以下「後行医薬品」という。)と有効成分並びに効能及び効果を同じくする医薬品(以下「先行医薬品」という。)について同項による製造販売の承認(以下「先行処分」という。)がされている場合であっても、先行医薬品が延長登録出願に係る特許権のいずれの請求項に係る特許発明の技術的範囲にも属しないときは、先行処分がされていることを根拠として、当該特許権の特許発明の実施に後行処分を受けることが必要であったとは認められないということはできないというべきである。」


「なぜならば、特許権の存続期間の延長制度は、特許法67条2項の政令で定める処分を受けるために特許発明を実施することができなかった期間を回復することを目的とするところ、後行医薬品と有効成分並びに効能及び効果を同じくする先行医薬品について先行処分がされていたからといって、先行医薬品が延長登録出願に係る特許権のいずれの請求項に係る特許発明の技術的範囲にも属しない以上、上記延長登録出願に係る特許権のうち後行医薬品がその実施に当たる特許発明はもとより、上記特許権のいずれの請求項に係る特許発明も実施することができたとはいえないからである。」


例え、有効成分、効能、効果が同一の先行処分があったとしても、この先行処分に係る品目と異なる医薬品の製造、販売には、後行処分が必要となります。
つまり、後行処分がない場合、特許発明を実施できないということには変わりないのです。
延長登録出願制度は、あくまで「特許発明の実施」に関する制度ですから、有効成分等が同一の薬品を製造・販売できるからといって、これに代替できるものでもありません。
したがって、実質的に特許期間が侵食されることに変わりはありません。
ところが、このような先行処分が存在する場合、延長登録出願が拒絶されるという運用がなされていたこと自体不当だったといえます。



原審:知財高裁平成21年5月29日
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20090529164534.pdf
特許権の存続期間の延長登録の制度が設けられた趣旨について、
特許法67条2項所定の「政令で定める処分」を受けることが必要な場合には、特許権者は、たとえ、特許権を有していても、特許発明を実施することができず、実質的に特許期間が侵食される結果を招く」とし、「このような結果は、特許権者に対して、研究開発に要した費用を回収することができなくなる等の不利益をもたらし、また、一般の開発者、研究者に対しても、研究開発のためのインセンティブを失わせるため、そのような不都合を解消させて、研究開発のためのインセンティブを高める目的で、特許発明を実施することができなかった期間、5年を限度として、特許権の存続期間を延長することができるようにしたものである。」
としています。


そして、「「その特許発明の実施に政令で定める処分を受けることが必要であった」との事実が存在するといえるためには、 崟令で定める処分」を受けたことによって禁止が解除されたこと、及び◆崟令で定める処分」によって禁止が解除された当該行為が「その特許発明の実施」に該当する行為(例えば、物の発明にあっては、その物を生産等する行為)に含まれることが前提となり、その両者が成立することが必要である」としています。
本件先行処分は、これによって禁止が解除された行為が本件発明の技術的範囲に属しないことから、本件発明の実施行為に該当するわけではありません。
したがって、「本件先行処分の存在は、本件発明に係る特許権者である原告にとって、本件発明の技術的範囲に含まれる医薬品について薬事法所定の承認を受けない限り、本件発明を実施することができなかった法的状態の解消に対し、何らかの影響を及ぼすものとはいえない」のです。
よって、本件先行処分の存在は、その特許発明の実施に政令で定める処分を受けることが必要であったことを否定する理由とならないのです。


その他にも、原審では、より細かな議論がなされていますので、参考までに。