最一判平成23年04月28日 損害賠償請求事件



<事案>
本件は、Xが、Z通信社配信のYら発行の各新聞掲載記事によって名誉を毀損されたと主張して、Yらに対し、不法行為に基づく損害賠償を求めた事案です。


X:上告人:平成13年当時、a大学付属b研究所勤務の医師
Yら:被上告人ら:社団法人Z通信社社員(加盟社)
Z通信社:全国の地方新聞社等を社員(加盟社)とする社団法人
・国内外のニュースを取材、作成した記事を加盟社等に配信する事業等を行っている。
・加盟社は、配信記事を新聞に掲載するか自由に判断できる。ただし、掲載する場合は、原則、そのまま掲載すべきとされる(Z定款等)。
・加盟社は、社費等の支払を通じZ通信社の運営費用を負担。また、社員総会等を通じ経営に参画。Z通信社理事及び監事の多くは、加盟社の役員等から選任。そのほかZ通信社運営報告や意見交換等
・Yらは、自社新聞発行地域外には、東京、大阪を除き、原則取材拠点なし。
・YらへのZ通信社配信記事は、1日約1500本。Yら発行新聞全記事の5〜6割がZ通信社からの配信に基づく。


平成13年3月2日:X:a大学病院にて手術
平成14年7月5日:Yら:Xが上記手術において、人工心肺装置の操作を誤り患者を死亡させたなどとする記事(本件各紙掲載記事)をそれぞれが発行する新聞に掲載
同記事は、Z通信社の配信を受けた記事を裏付け取材せず、ほぼそのまま掲載(配信に基づく記事という表示はない)。



<判旨の概要等>
原審:Xの請求棄却

最高裁:Xの上告棄却

民事上の不法行為である名誉毀損については、その行為が公共の利害に関する事実に係り、その目的が専ら公益を図るものである場合には、摘示された事実が真実であることの証明がなくても、行為者がそれを真実と信ずるについて相当の理由があるときは、同行為には故意又は過失がなく、不法行為は成立しない(最高裁昭和37年(オ)第815号同41年6月23日第一小法廷判決・民集20巻5号1118頁参照)。」

この相当の理由について、Xは、YらやZといった行為主体ごとに判断すべきであるから、Zに相当の理由があったとしても、裏付け取材をしていないYらに相当の理由があったとはいえない主張しました。


これに対して、最高裁は、
まず、
新聞社が通信社を利用して国内及び国外の幅広いニュースを読者に提供する報道システムは、新聞社の報道内容を充実させ、ひいては国民の知る権利に奉仕するという重要な社会的意義を有し、現代における報道システムの一態様として広く社会的に認知されているということができる。そして上記の通信社を利用した報道システムの下では、通常は、新聞社が通信社から配信された記事の内容について裏付け取材を行うことは予定されておらず、これを行うことは現実には困難である。」


「それにもかかわらず、記事を作成した通信社が当該記事に摘示された事実を真実と信ずるについて相当の理由があるため不法行為責任を負わない場合であっても、当該通信社から当該記事の配信を受け、これをそのまま自己の発行する新聞に掲載した新聞社のみが不法行為責任を負うこととなるとしたならば、上記システムの下における報道が萎縮結果的に国民の知る権利が損なわれるおそれのあることを否定することができない。」


と通信社を利用した報道システムの社会的意義を強調したうえで、このようなシステムの下で、新聞社が独自の裏付け取材を行うことは現実的ではないとし、通信社が不法行為責任を負わない場合に、配信を受けた新聞社のみが不法行為を負うことが、このようなシステム下における報道の萎縮と国民の知る権利に対する影響に言及しています。


そして、「少なくとも当該通信社と当該新聞社とが、記事の取材、作成、配信及び掲載という一連の過程において、報道主体としての一体性を有すると評価することができるときは、当該新聞社は、当該通信社を取材機関として利用し、取材を代行させたものとして、当該通信社の取材を当該新聞社の取材と同視することが相当

とし、通信社に前記相当の理由がある場合、当該新聞社が当該配信記事に摘示された事実の真実性に疑いを抱くべき事実があるにもかかわらずこれを漫然と掲載したなど特段の事情のない限りは、当該新聞社についても相当の理由があるとしました。


通信社と新聞社とが報道主体としての一体性を有するかどうかについては、
「通信社と新聞社との関係、通信社から新聞社への記事配信の仕組み、新聞社による記事の内容の実質的変更の可否等の事情を総合考慮して判断するのが相当である。」
としました。


そして、本件については、
「Z通信社の加盟社は、自らの報道内容を充実させるためにZ通信社の社員となってその経営等に関与し、同社は加盟社のために、加盟社に代わって取材をし、記事を作成してこれを加盟社に配信し、加盟社は当該配信記事を原則としてそのまま掲載するという体制が構築されているということができ、Z通信社と加盟社は、記事の取材、作成、配信及び掲載という一連の過程において、報道主体としての一体性を有すると評価するのが相当であ」り、本件配信記事について、前記特段の事情があるとはうかがわれない。


として、


「Z通信社が本件配信記事に摘示された事実を真実であると信ずるについて相当の理由があるのであれば、加盟社である被上告人らが本件各紙掲載記事に摘示された事実を真実であると信ずるについても相当の理由があるというべきであって、被上告人らは本件各紙掲載記事の掲載について名誉毀損の不法行為責任を負わないというべきである。」
としました。


「少なくとも」という語句と、その前の配信記事システムと知る権利の関係についての言及がやや気になりますが、報道主体の一体性がある場合に「当該通信社の取材を当該新聞社の取材と同視する」としてしていることから、報道の主体の一体性の有無がポイントとなっていると思われます。
また、本判決の射程を広げすぎると、新聞社等の実際に報道する機関の責任逃れに繋がり妥当でない結論に至る可能性があります。
したがって、報道主体の一体性がない場合にまで通信社の事情を考慮するなどして、本判決の射程は広げるべきではないと思います。